2009年7月12日日曜日

「ミスティー・ムーン」

Misty Moon(1985年)

Outer Limits(アウター・リミッツ)


1980 年代半ば、日本のインディーズ・プログレッシヴ・ロックシーンが盛り上がりを見せた時に、関西のPageant(ページェント)と共に、関東のOuter Limits(アウター・リミッツ)らがシーンを牽引していった。そのOuter Limitsの1985年のデビューアルバムが「Misty Moon(ミスティー・ムーン)」である。

日本のバンドだからと侮ってはいけない。非常に高度な作曲及びアレンジによる王道シンフォニック・ロックである。クラシカルで緻密な楽曲、そして分厚いながらも、オーケストラのように動くキーボード。それだけでもずば抜けている。

そこにリード楽器としてクラシカルなヴァイオリンが舞う。それもそのプレイは欧米のヴァイオリンプレイヤーと比べても何の遜色もない。むしろテクニック、表現力、そして日本的情念まで込められたそのヴァイオリンプレイは、わたしの中では一つの理想形ですらある。

 塚本周成:キーボード、作曲
 桜井信行:ドラムス
 荒牧 隆:ベース
 川口 貴:ヴァイオリン、ギター、コーラス
 上野知己:ボーカル、キーボード

川口がギターも弾いているが、メインはヴァイオリンである。またベースの荒牧は後にギターで活躍するようになるが、ここではベースに徹している。つまり基本的にヴァイオリン・フロントのバンドなのだ。

アルバム最初の曲「Prelude」でまず打ちのめされた。映画の一場面のようなSEに引き続き始まったのは、ボレロ風リズムに多重録音されたヴァイオリ ン・オーケストラ、Eumilatorのフレンチ・ホルンの雄大なテーマ。クラシックかと思うほどの重厚さ。躍動感あるロック的なリズムに変わっても、 オーケストラ的な多彩な音と厚みは変わらない。ドラムスもジャズやロックというよりは、“オーケストラ用ドラム”とでもいうような、パーカッション的でスクエアで重いプレイ。

そして中間部で一転して静寂なパートに移った時に現れる心に染み渡るヴァイオリンソロ、後半再びボレロのリズムで壮 大に盛り上がるオーケストレーション。レコードの帯にあった「目を醒ませ!ヨーロッパのプログレ幻想へ決 別の時だ!!」が1985年当時、決して大げさではないことを、アルバムを聴いて実感した。

それもそのはず、全曲の作曲を手がけているキーボードの塚本は、音大パイプオルガン科出身。ヴァイオリンの川口も音大ヴァイオリン科出身の、プロのオーケストラ・ヴァイオリニスト。そしてボーカルの上野は当時、音大声楽科に在籍していた。

従って曲の作りが違うのだ。非常にクラシカルな構築性の高い楽曲なのである。そしてそこに美しいメロディーが散りばめられ、表情豊かでとても深みのあるヴァイ オリンがソロを取る。Eumilatorやメロトロンが、バラエティー豊かな音色で、楽曲を彩る。決して形式だけでできあがっている音楽ではない。強烈な感情が込められたインストゥルメンタル曲なのだ。

そして2曲目「Misty Moon」。英語詞によるボーカル曲。不気味なイントロからすでにヴァイオリンがうねる。ボーカルの合間に切れ込んでくるエレクトリック・ヴァイオリンが 素晴らしい。わたしの職業柄、英語の発音が気になってしまうが、声と音程はグッドだ。そのマイナス部分を凌駕する曲の良さ。中間部のゆったりとしたヴァイ オリン・ソロが歌う歌う。そして最初に聴いた時は本当に震えるほどの衝撃だった、驚異的なラストのクラシカル・インストパート。Eumilatorコントラバスとヴァイオリンによる華麗なアンサンブル。

さらにヴァイオリンが大活躍するのが3曲目「Saturated Solution(飽和溶液)。キーボードが奏でる複合変拍子の中、最初から最後までテンションが持続する。中間部のヴァイオリン・ソロのメロディーが何回聴いてもいい。ヴァイオリンは奏者によって非常に音が変わる楽器だと思うが、彼のヴァイオリンは恐ろしく深みのある音がする。もちろんピッチやリズムの正確さなどのテクニカルな面でも一級だ。

最後の「すべては風のように」は日本語詞による曲。安心して聴ける。やはり曲の構成がいい。次々と飽きさせず曲が展開し、この曲のみヴァイオリンは入らず、代わりに川口の弾くギターを聴くことができる。Outer Limitsが決して川口のヴァイオリンに頼ったバンドではないことを再確認させてくれる。最後は子供のコーラスまで加わるシンフォニック大曲だ。

全体を通してドラムスが若干単調に聴こえるかもしれない。それは“単調”というより、“スイングしない”ドラミングなのだ。しかしこの構築されたクラシカルで重層的な曲においては、このオーケストラパーカッション的なドラムスが、逆に楽曲の雄大さに貢献していると言えるだろう。

当時国内だけ でなく海外での評価も高く、「History of Jap's Progressive Rock」(ヌメロ・ウエノ、たかみひろし著、マーキームーン社、1994年)によれば、フランスの「Harmonie」誌では80年代の世界のプログレ 作品のベストアルバムに、次作「少年の不思議な角笛(A Boy Playing The Magical Bugle Horn)」(1986)を挙げたり、「Notes」誌でも本アルバムを80年代のベスト3に挙げたりしていたという。

ヨーロッパのようにクラシック音楽を文化的背景として持たない日本のバンドが、そのクラシックな技法を、楽曲面でも演奏面でも対等なレベルまで高めて、なおかつモノマネではないオリジナリティーあふれる音楽として結実させた、傑作アルバムである。

次作「不思議な角笛」はオリジナルファンタジーに基づくトータルアルバム。残念ながらファンタジーの内容に魅力を感じないのと、やっぱりわたしは英語詞の発音が気になってしまうので、本作を最高作として推したい。ただし楽曲の完成度は異常に高い。

曲単位で見た場合、次次作の「ペール・ブルーの情景(The Scene Of Pale Blue)」(1987)に入っているタイトル曲「The Scene of Pale Blue」が20分を越える大作にして傑作。川口のヴァイオリンに加え、本作ではベース担当だった荒牧が素晴らしプレイを聴かせてくれる。

個人的には、当時教員に成り立ての苦しい毎日を、このアルバムをメインにOuter Limitsの音楽が支えてくれた。よく仕事の行き帰りに聴いて、元気をもらったものだったなぁ。

なお2007年に、なんと20年ぶりの新作「STROMATOLITE」を発表した。これも傑作。


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