2009/07/10

「恐るべき静寂」

TAI PHONG(1975年)

TAI PHONG(タイ・フォン)


TAI PHONG(タイ・フォン)はフランスのグループであるが、ベトナム人の血が交ざった兄弟2人が中心となって結成された。
 
一聴するとそれは、ボーカルの声質に顕著に現れているように聴こえる。東洋人的なやや線が細く中性的なハイトーンボーカルなのである。ところが実際にリード・ボーカルを取っているのは、後にソロとして国民的歌手となるJ.J.Goldman。したがって東洋的なイメージは、バンドメンバーというよりはバンド全体のかもし出すカラーなのだ。
 
そして歌詞は英語。フランスのバンドだからと、わかり易いフランスらしさを求めるとTAI PHONGには当てはまらない。むしろ無国籍なメロディック・ロックである。

しかしその夢見るような 甘い音やメロディー、ささやきかけるようなボーカルや狂おしいほどのギターの音などを聞けば、彼らがフランスを代表するバンドの一つであることが、すぐにわかるだろう。「TAI PHONG」(邦題は「恐るべき静寂」)は1975年に発表された、彼らのファースト・アルバム。武士のロボットのようなジャケットが目を引くが、“勘違い日本”的な部分は皆無なのでご安心を。

 KHANH:ボーカル、ギター
 TAI:ボーカル、ベース、アコースティック・ギター、ムーグ
 J.J.GOLDMAN:ボーカル、ギター
 Jean-Alain GARDET:キーボード
 Stephan CAUSSARIEU:ドラムス、パーカッション

メンバーの担当楽器を見てわかるように、TAI PHONGはツイン・ギターである。その魅力がまず最初の曲「GOIN' AWAY」で炸裂する。

声質の好みの問題はあるかもしれないが、歌は上手い。ハーモニーも抜群だ。
そして流れるような展開、美しくからむ楽器たち、演奏にもそつがない。しかしなんと言っても、泣きのギターソロが連続する中間部の素晴らしさ。そのバトンタッチの瞬間の何とも言えない呼吸。

ボー カルの表現力が発揮されるのは、シングルカットされたボーカル曲「SISTER JANE」においてだ。メロディーも極上。次第に盛り上がっていき、最後ハイトーンでシャウトするボーカルが胸を打つ。「Fields Of Gold」の導入部分のささやくようなボーカルも絶品だ。

テクニカルな演奏はほとんどなく、各楽器の音を活かしたアンサンブルが主体。曲の緩急のアレンジが絶妙で、甘いトーンの2本のギターを中心にピアノ、オルガンなどのキーボードがドラマティックに色づけをしていく。そして中性的ハイトーンのボーカルとボーカルハーモニーが、独特の繊細さを曲に与え、それがまた大きな個性となっている。

そのままいつまでも浸っていたい音楽。演奏のタイトさが増したセカンドの「WINDOWS」とともに、叙情的な魅力あふれる傑作。