2009/07/08

「ティルト」

Tilt(1974年)

Arti & Mestieri(Arti E Mestieri)

(アルティ・エ・メスティエリ)


Arti & Mestieri、又はArti E Mestieri(アルティ・エ・メスティエリ)はイタリアのジャズロック系のバンド。バンド名は「芸術家と職人達」という意味だという。「Tilt」そ の1974年のデビューアルバムにして、Arti & Mestieriのみならずイタリアンロックの最高峰の一つと言われる。

個人的にも思い出がある。昔とあるレコード店にふらっと立ち寄った際にこのアルバムを偶然見つけ、小躍りしてカウンターに持って行くと、店主がうれしそうに 「いつか誰かがこのアルバムを買っていってくれると楽しみにしていたんですよ。」と言ったのだ。ちょっと照れくさかったけれど、きっと二人でニコニコと微笑み合っていたに違いない。

 Furio Chirico:ドラムス、パーカッション
 Beppe Crovella:キーボード、メロトロン
 Marco Gallesi:ベース
 Gigi Venegoni, ギター、シンセサイザー
 Giovanni Vigliar, バイオリン、ボーカル、パーカッション
 Arturo Vitale:サックス、クラリネット、ビブラフォン

まず何を置いてもFurio Chirico(フリオ・キリコ)のドラミングが最大の特徴であろう。スネアやタムでのロールを多様した彼のドラミングはジャズを基本にしているが、その 一部のスキも与えずに曲全体を埋め尽くすようなプレイが異常にスゴい。しかしそれは最近の、プログレメタル的なテクニカルさを全面に出したものとは全く異 なる。

例えば最初の曲「GRAVITA 9.81」では、メロディーの裏で、ドラムがハイハットを刻みながら常に音を出している。しかし、これだけの手数で叩いていながらリズムが揺れるどころ か、逆に強烈な緊張感と疾走感を生み出している。非常にテクニカルな技術を持っていながら、叙情的なメロディーを決して殺さない。いやもっと言えば、ドラ ムが歌っているのだ。

技量的に他のメンバーが追いつけないために、ドラムが目立っているわけでもない。他のメンバーも非常に端正な緊張感あふれるプレイをしている。そして動きの少ない大きなメロディーを使うことでドラムの歌を活かしている。

各曲の展開もすばらしい。2曲目の「Strips」のメロディーに入ってくるメロトロンのなんと美しいことか。メロディーはキーボードから始まり、バイオリ ン、サックスと楽器が重なっていく。そしてその盛り上がりが途切れた瞬間、Giovanni Vigliarの歌うアルバム唯一のボーカルパートが静かに流れ出す。美しい!その声の柔らかさ、メロディーの美しさ、バックのアコースティックギターと メロトロンの繊細な響き、そしてそこにおいても叩き続けているChiricoの技術とバランス感覚の良さ。静かに穏やかに歌われる歌詞は ProgLyrics(プログリリックス)をご参照を。

情熱的なイタリアンロック のイメージとは異なる都会的な音。しかしそこにある美しいメロディーや繊細さはイタリアならではのものだ。全ての楽器がバランスよく音を出し、メロディー を奏でハーモニーを作っていく。そして牧歌的な曲からスリリングな曲まで常に歌い続けるドラム。Chiricoをのドラミングは、テクニック的に注目されがちだが、もっと「歌」として評価されるべきである。

このアルバムも唯一無二。奇跡の傑作である。