2009/07/13

「ハンバーガー・コンチェルト」

Hamburger Concerto(1974年)

Focus(フォーカス)


Hamburger Concerto」(邦題は「ハンバーガー・コンチェルト」) は、オランダのFocus(フォーカス)による1974年の4枚目のスタジオアルバムである。前作として「at the rainbow(アット・ザ・レインボウ)」(1973)というライブを出して、その圧倒的なステージパフォーマンスから、次作への期待が高まる中で作られた代表作の一つだ。本作発表の1974年には来日も果たしている。

一般的にバンドはライヴアルバムを出すと、ある面それまでの総決算と なり、あらたな方向性に踏み出すことが多いと言われる。しかしここでFocusは、セカンドの「Moving Waves(ムヴィング・ウェイヴズ)」を踏襲するかのような、小曲4つと20分を越える大曲1曲という構成による作品を作り上げた。Thijis Van Leer(タイス・ヴァン・リア)のボイ スを除けば、オールインストゥルメンタル。

 Thijis Van Leer:オルガン、ピアノ、ハープシコード、フルート、
        ARPシンセサイザー、リコーダー、メロトロン、
        ビブラフォン、アコーディオン、
        パイプオルガン、手拍子、ボイス、口笛
 Jan Akkerman:リュート、ティンパニ、手拍子、ギター
 Bert Tuiter:ベース、オートハープ、トライアングル、
        チャイニーズ・フィンガー・シンバル
        手拍子、スイスベル
 Colin Allen:ドラムス、コンガ、タンバリン、カスタネット、
        カバサ、ウッドブロック、
        チャイニーズ・ゴング、ティンパニ、手拍子、
        フレクサトーン、クイーカー

セカンドアルバム「Moving Waves」が「Hocus Pocus(悪魔の呪文)」という、Focusの代表作の一つでありながら、リスナーの度肝を抜く奇抜で強烈な印象を残す曲から始まったのとは対照的に、この 「Hamburger Concert」は「Delitae Musicae(リュートとリコーダーの為の小品<音楽の歓び>)」で始まる。リコーダーとリュートによるクラシカルで落ち着いた曲。Jan Akkerman(ヤン・アッカーマン)の弾くリュートが特に美しい。

2曲目のは一転してノリの良い「Harem Scarem(ハーレム・スカーレム)」。基本メロディーをピアノが取っているのがFocusらしい。ジャズ風ギターソロな部分、クラシカルなフルート、Thijisの奇妙な声などが、一定のリズムの上で目まぐるしく入れ替わるFocusサウンド。

そして「LA CATHEDRALE DE STRASBOURG(ストラスブルグの聖堂)」。個人的にはキリスト教的な神聖な異空間の中心部へ一気に連れて行かれたFocus屈指の名曲。力強く、そして繊細に響くピアノの美しく荘厳な調べ。Thijisのボーカルも“まとも”で、一人コーラスが非常に美しい。そして続くのがなんと口笛。これがまた 楽器のように正確な音程でメロディーを美しく奏でる。ギターが入って曲はいったん軽やかなワルツになるが、再び荘厳な曲調に戻り曲は終わる。

「バース(Birth)」はクラシカルなチェンバロから始まり、重いリズムによるロック・アンサンブルへと移る。しかしフルートが活躍していることもあり全体的にクラシカルさを感じさせる曲。中間部のフルートソロからギターソロの部分も非常にテクニカルかつエモーショナル。

そしてラストの大曲「Hamburger Concert(ハンバーガー・コンチェルト)。ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」から始まるこの曲もクラシカルな格調の高さに、重いドラムスがロック的なダイナミズムを加える。

基本的な流れはThijisの厚みのあるキーボードが作り上げる。基本リズムが最初から大きくは変わらないので、入れ替わり立ち替わり様々な楽器やメロディーが現れてくる割に、自然に最後まで聴けてしまう。

まずは、待ってましたのローデル・ボイス&ベルカントボイス&ファルセットボイス、キーボード・ソロ、フルートソロとThijisが先手を取る。この人は何をやらせても上手いなぁ。余裕を持って聴かせる。音楽表現欲求のとても強い人なんだということがよくわかる。

続いてJan Akkermanのギター・ソロ。ジャズ風に展開しながら、こんなに固めな音なのにメロディアスで表情豊か。リュートであれだけクラシカルな曲を弾きながら、エレキギターだとThijisのクラシカル志向に対抗するように、自分のジャズロックスタイルのギタープレイで突き進むところが素晴らしい。所々でふっと泣きのフレーズが入るところもいい。

そして最後、しだいに盛り上がった頂点で、シンセサイザーの雄大なメロディーがこの大曲をしめくくる。様々な要素が入っていながら聴き易く、展開にも無理がなく、でも飽きさせもせず、スムーズにフィナーレに向って流れていく。名曲です。

頭であれこれ考えてひねくり出した音楽ではなく、自らの音楽的素養から自然と湧き出てきた音や旋律を、優雅にそして自由に、あふれんばかりのテクニックと表現力で聴かせるのがFocusの凄いところ。

その特徴は、リズム&ブルースからロックンロールを経てロックに至るという一般的な考え方とは一線を画し、ヨーロッパのクラシック音楽の延長線上に、より新しい音楽を作ろうとした結果生まれた唯一無二の音楽。傑作。

なお、CD化に際して最後に「Early Birth」という曲が最後に加えられているが、これはシングル盤で「Harem Scarem」とカップリングされていた4曲目「Birth」の短縮別バージョン。LPには収録されておらず、本作は5曲目の「Hamburger Concert」までで聴くべきアルバムである。「Early Birth」はボーナス・トラック的位置づけか。