2009/07/22

「螺鈿幻想」

螺鈿幻想(1986年)

Pageant(ページェント)


螺鈿幻想」(らでんげんそう)は、日本のバンドPageant(ページェント)が1986年に発表したファースト・アルバムである。80年代の日本のプログ レッシヴ・ロックを牽引したバンドの一つであり、その強烈な個性を持った音楽は、他に類を見ないオリジナリティー豊かなもの。すべて日本語の歌詞により、怪奇幻想世界を描く。

 中嶋一晃:ギター、ボーカル
 永井博子:ボーカル、キーボード
 宮武“シリウス”和広:フルート、アコースティックギター
 長嶋伸行:ベース
 引頭英明:ドラムス

まずお断りしておくと、わたしはこのアルバムをLPで聴いている。だからCDで新たに4曲目に入っている「人形地獄」は、わたしにとっては「螺鈿幻想」の曲ではない。気持ち的にはボーナストラックなのだ。だから今「螺鈿幻想」を聴くときも「人形地獄」をカットしてiPodに入れている。

わたしにとってはオリ ジナルの6曲が、その順番で聴けないと「螺鈿幻想」にならないのだ。「人形地獄」の曲の善し悪しとは全く無関係だ。申し訳ない。

アルバムはオルゴールの可愛らしいメロディーで始まる「螺鈿幻想」で幕を開ける。一転してシンフォニックでハードな演奏で曲が始まり、ガラスの割れる音でブ レイクが入ると、緊張感を保ったままアコースティックギターの妖し気なアルペジオがボーカルを待つ。すでに緩急の激しい劇的な展開に引き込まれる。そして 永井博子の歌唱力豊かなボーカルが歌い出す。歌が抜群に上手い。最近女性の美声ボーカルをフロントに立てるバンドが多いが、彼女の声は芯の太い力強く美しい声だ。そして妖しい。

「ヴェクサシオン」はジェネシス的なアルペジオに乗って淡々と重い世界が歌われる。フルートが美しい。シンコペー ションを活かしたドラマティックなリズムで始まる「木霊」は、シャウトするボーカルが聴ける激しい曲。永井博子の魅力炸裂だ。迷宮にはまり込んだような詩も面白い。そしてLP時代A面は狂ったような笑い声で終わる。

「夜笑う」はPageant風怪奇幻想バラードか。歌だけでなくピアノ、フルートが活かされていて、バンドのセンスの良さがわかる。泣きのギターも曲を盛り上げる。「セルロイドの空」は唯一中嶋一晃が歌う曲。歌は上手いとは言えないが、ストレートでノスタルジックな世界が広がる印象的な曲。中間部のコロコロと動くキーボードと、たおやかなフルートから続くクライマックスはちょっ と涙もの。

そしてラスト「エピローグ」は大大大好きな不気味な曲。イントロのフルートがまたいい味を出している。ミディアムテンポのメランコリックなメロディーながら、永井博子の美しい声がやがて力強いシャウトに変わっていくところが凄い。ギターソロも弾きまくっている感じ。「バラの香り、血の匂い、連れて行って、あなたのところへ」って詩も、いいでしょ〜?この非常にドラマチックな曲でアルバムは終わる。

昔は最後の曲が終わっても、よくそのまま暗い部屋で余韻に浸っていたものだ。うぅ暗い。でも幸せなひと時。

プログレッシヴ・ロックに限定することなく、日本の音楽全体を広く見回しても、日本的な怪奇幻想世界をみごとに表現できた希有な作品。ボーカルの非凡さは言うに及ばず、非常にメロディーと楽器のバランスを大切にしたバンドである。もちろん傑作。

ちなみにLPには手作り風ブックレットがついていた。こうしたお遊び感覚、何でもあり感覚もPageantの魅力の一つ。笑いと恐怖は紙一重であるとも言うし。