2009/07/11

「アウト・オブ・ザ・デプス」

Out of the Depths (1993年)

Terry Oldfield(テリー・オールドフィールド)


Out of the Depths (De Profundis)」はTerry Oldfield(テリー・オールドフィールド)の1993年の作品である。普通プログレッシブ・ロックアルバムとは見なされない。ニュー・エイジ・ ミュージックかヒーリング・ミュージックとして扱われていることの多いアルバムだ。ジャケットもクジラだし。

しかしTerry Oldfieldは実は、一部が映画「エクソシスト」のテーマとして使われた「Tubular Bells」(邦題は「チューブラベルズ)で有名な、Mike Oldfieldの兄弟にあたる。Mike Oldfieldがギターを中心に様々な楽器を多重録音して美しくも激しい作品を作り上げたのに対し、Terry Oldfieldは独学で習得したフルートを活かし、やはり様々な楽器を一人でプレイしながら、ゆったりとした深みのある独自の世界を作り上げている。

両者の出自は近く、Terry Oldfieldの持つサウンドの深みは、プログレッシブ・ロック的だと言えるのだ。

アルバムタイトルの「OUT OF THE DEPTHS (De Profundis)」はキリスト教の詩編から取られたもので「深き淵より」という意味。曲中でもこの詩編の一節が繰り返し歌われる。

 Out of the depths I have cried to Thee, O Load
 Load, hear my voice.
 Let Thine ears be attentive to the voice of my supplication.

 おお神よ、汝に向かって我は、深き淵より叫び続ける
 神よ、我が声を聞きたまえ
 我が嘆きの声に、汝の耳を傾けたまえ

曲は25分近い大作「De Profundis」を含む、全3曲。どれもゆったりとしたリズムで、Terry OldfieldのフルートとImogen Mooreという女性の美しいボーカルがメロディーを奏でていく。低音を活かした深みのあるフルートは聞く者を優しく包み込む魅力を持ち、美しく柔らかな高音のボーカルは天使の声のようだ。この両者が出会って初めて可能になった作品。

バックに流れるのは、繊細にアレンジされたキーボードサウンド。ドラムやベースといったリズム楽器は使用されていない。揺れるようなエレクトリックピアノの音が静かにリズムを刻む。しかしそこにピアノやクジラの声のSEなどが重なり、フルートとボーカル主体の曲にアクセントを入れながら、深遠な海の“深き淵” より立ち上って来るような音楽を作り出している。

美しい音に包まれ、メランコリックで神秘的な別世界に深く潜り込み、時を忘れて漂うような感覚。傑作。