2009/07/17

「グレイとピンクの地」

In The Land of Grey and Pink(1971年)

Caravan(キャラバン)


In The Land of Grey and Pink」(邦題は「グレイとピンクの地」)はイギリスのバンドCaravan(キャラバン)が1971年に発表した第3作目の作品である。

イ ングランド東部の都市カンタベリー(Canterbury)では、1964年結成のWild Flowersというバンドを母体として、その後多数のバンドが生まれた。このことからその一群を“カンタベリー・ロック”と呼ぶようになる。 Caravanはその代表的なバンドの一つだ。

 Richard Sinclair:ベース、アコースティックギター、ボーカル
 Pye Hastings:エレクトリック&アコースティックギター、ボーカル
 Dave Sinclair:オルガン、ピアノ、メロトロン、ボーカル
 Jimmy Hastings:フルート、テナーサックス、ピッコロ
 David Grinsted:キャノン、ベル、ウインド

1971年というとPink Floydの「Meddle(おせっかい)」、Yesの「The Yes Album」、King Cromsonの「Island(アイランド)」、Genesisの「Nursury Crime(怪奇音楽骨董箱)」、EL&Pの「Tarkus(タルカス)」らが発表された時期。総じてバンドがその絶頂期へ向って突き進んでいる 時期だ。

しかし他のバンドがメロトロンやムーグシンセサイザーなど、時代の最先端の楽器を積極的に取り入れていったのとは対照的に、 Caravanはこのアルバムではオルガンを中心に置いた、聴きごたえのあるジャズ・ロック的アプローチで、温かみのある独自の世界を描くことに成功して いる。

まず旧LPのA面にあたる小曲のポップな味わいが、他のプログレッシヴ・ロックバンドのドラマチックな作りとことなり、非常にとっつきやすい印象を与える。 その魅力の大きな要因は何と言ってもまずRichard Sinclairの魅力的なボーカルだ。彼の甘い声、穏やかな歌い方、安定したピッチが、Caravanの親しみ易さや安らぎを産み出している。

そしてそのポップな小曲もシングルヒットを狙うようなものではなく、ちょっとユーモラスだったり、叙情的であったりしながら、旧LPのB面全てを使った大曲 「Nine Feet Underground」へ繋がるオルガンプレイや、フルートやサックスなどが彩りを加え、味わい深いものとなっている。

このDave Sinclairの弾くファズがかかったオルガンが、もう一つのCaravanサウンドの要であり、ジャズ・ロック的インストゥルメンタル面での核にもなっている。この独特のザラザラした音がいい。もちろんトーンも変えるのだが、一貫してオルガンにこだわって作られているところが特徴だ。

そのオルガンプレイを十分に堪能できるのが、22分に及ぶ組曲「Nine Feet Underground」である。特に複雑なことや奇抜なことはやっていない。むしろ淡々としたプレイなのだが、実に味わい深いのだ。またCaravan の持つジャズ・ロック的なアンサンブルもその威力を発揮し、他の楽器とのスリリングなインタープレイも聴くことができる。

そしてオルガンを大々的にフューチャーしながら、起伏に富んだ曲構成や、絶妙にインストゥルメンタルパートに入り込んでくる愛おしさを感じさせるほどのボーカルなどにより、22分が少しも緊張感が途切れることなく、流れるように進んでいく。

だからジャズ・ロックと言った時に思い浮かべるような、激しいインタープレイの応酬だとか、超絶プレイだとか、インプロヴィゼーションだとかといった攻撃的な部分はなく、とても聴き易く、心地よい世界へ誘ってくれる音楽なのだ。

ずっと浸っていたいと思わせるようなジャズ・ロック。最初のインパクトはそれほど強くない(だって1曲目なんてゴルフ・ガールとの恋の歌だ)が、じわじわとその音の魅力に心を奪われていく、Caravanが残した傑作である。