2009/07/21

「永遠の序曲」

Leftoverfure(1976年)

Kansas(カンサス、正式な発音は“カンザス”)



Leftoverfure」」(邦題は「永遠の序曲」)は、アメリカのプログレッシヴ・ロックバンドKansasの1976年の作品。

アメリカらしい明るくキャッチーなメロディーを歌い上げるボーカルと、ハードロック的なノリのよい演奏、それでいてイギリスのプログレッシヴ・ロックを意識したテクニカルなインストゥルメンタルが、絶妙にブレンドされた代表作。

メンバーの担当楽器からもわかるように、音楽的な大きな特徴はヴァイオリン奏者がいること。しかしバイオリンというのは奏者によってとても音色の変わる楽器 で、Kansasの場合、イギリスのトラッドさやイタリアのクラシックさとも違った、クラシカルな中に時折どことなくカントリーっぽい音が感じられる。い かにもアメリカらしいと言えるか。

 Phil Ehar:ドラムス、パーカッション
 Dave Hope:ベース
 Kerry Livgren:ギター、キーボード
 Robbie Steinhardt:ヴァイオリン、ボーカル
 Steve Walsh:キーボード、ボーカル
 RIch Williams:ギター

さらにリード・ボーカルがキーボードも弾くので、ヴァイオリン、ツインキーボード&ツインギターによる多彩で複雑な演奏を可能とし、そこにSteve Walsh(スティーヴ・ウォルシュ)の力強く歌い上げるボーカルと、さわやかなボーカルハーモニーが加わるという、ハードロックとしてもプログレッシ ヴ・ロックとしても魅力ある作品である。

1977年というと、年代的にイギリスのプログレッシヴ・ロックバンドらが解散やポップ化により模索期に入った時期だが、Kansasはそうした流れとは無関係に人気を拡大していく。その猛攻はこのアルバムから始まると言ってよい。

そしてそのサウンドは、Asiaのような確信犯的プログレッシブ・ポップではなく、歌を大切にしたアメリカンな明快なハードロックに、イギリスのYesや Genesisiなどのバンドの複雑なインストゥルメンタル要素を積極的に取り込んだ、オリジナルなアメリカ型プログレッシヴ・ロックだ。どことなく泥臭 い感じが残っているのも、このバンドの個性だろう。

アルバムはKansasの代表曲としてシングルカットもされた名曲「Carry On My Wayward Son(伝承)」で幕を開ける。人生の中で苦しみに負けそうになるとどこからともなく聞こえてくる力強い励ましの言葉(歌詞に関してはProglyrics「伝承」ご参照のこと)を歌った曲。冒頭の力強いアカペラコーラスからなだれ込むハードなギター&キーボードサウンドが素晴らしい。一転してピアノをバックに歌うパートの繊細さ。動と静の対比の上手さ。

伸びのある声で力一杯歌うボーカルスタイルも、インストゥルメンタル部分のノリのよさもイギリスのバンドにはなかったものだ。そこに2曲目の「The Wall(壁)」のような、ハープシコードやバイオリンの入るクラシカルな曲の緻密な構成、そしてドラマチックな展開が加わるのだから、プログレッシヴ・ ロックだからと身構える必要なく、Kansasの世界に自然に魅き込まれてしまう。

「Miracles Out Of Nowhere(奇跡)」ではヴァイオリンのRobbie Steinhardt(ロビー・スタインハート)がメインボーカルを取る。Steveほど熱くなく淡々とした歌い方も味があってよい感じだし、曲調のバリエーションにもつながっている。また7曲目の「Cheyenne Anthem(黙示録)」のようなアコースティックでクラシカルなパートに始まり、スピーディーなインスト・アンサンブルを自然につなげていく曲も Kansasの魅力の一つだ。

Kansasには「Two For The Show(偉大なる聴衆へ/カンサス・ライヴ)というライブアルバムがあるが、そこではYesのステージを意識したような、アコースティック・ギターソロ&キーボードソロのコーナーが用意されている。

そこからもうかがえるように、ボーカルの印象が強いバンドであるが、実は個々のプレーヤーのテクニックも、アンサンブルの一体感も非常に高度なバンドである。

特に8分を越える最終曲「Magnum Opus(超大作)」のインストゥルメンタルプレイの炸裂にその実力が顕著に現れている。この曲は他の曲のようなキャッチーさは抑えられ、目まぐるしく移り変わるアンサンブルの緊張感が大きな魅力だ。非常によく各楽器のバランスが考えられていて、単なるソロ回しではない楽曲の良さ。最初と最後に出てくるメインテーマの重々しさ。

今のプログレ・メタルバンドの、非常にテクニカルで複雑で長大な楽曲と比べると、音の厚みや複雑さに物足りなさを感じるかもしれないが、逆にこのシンプルさの中に潜むそれぞれのプレーの的確さや、巧みな楽器の組み合わせを活かした曲の展開の妙、そして熱いボーカルと ボーカルハーモニーにこそ、このバンドの魅力と真の実力が見て取れるだろう。

イギリスからもヨーロッパからも決して出てこなかった類いのプログレッシヴ・ロックである。カンサスの、そしてアメリカンプログレの中でも飛び抜けた傑作。

ちなみにタイトルの“leftoverture”という単語はない。アルバム最後の曲「超大作」(原題:Magnum Opus)は当初、アルバムタイトルの“Leftoverture”というタイトルが付けられており、それは他の曲の「使い残り」を編集して作られたもの だったところから来ているという。だから“Leftoverture”とは“leftover(使い残りの)”と“overture(序曲)”を組み合わせた造語、ちょとしたお遊びというところか。